月別アーカイブ: 2025年9月

相互鈑金のよもやま話 ~整備後のチェックは“仕上げ”ではなく“安全の最終工程”~

皆さんこんにちは!

相互鈑金、更新担当の中西です。

 

~整備後のチェックは“仕上げ”ではなく“安全の最終工程”~

 

事故や接触で傷んだクルマは、板金・溶接・塗装・組付まで数多くの工程を経て戻ってきます。最後に待っているのが「整備後のチェック」。これは見栄え確認ではありません。安全性・機能性・耐久性を保証する、れっきとした“最終工程”です。ここが甘いと、どれだけ美しく直しても品質はゼロに近づきます。この記事では、実務でそのまま使える最終検査の型を、チェックリストとともに整理します。


1|整備後チェックの基本思想(3つの“元に戻す”)

  1. 形状を元に戻す:面、R、チリ(クリアランス)

  2. 機能を元に戻す:開閉・電装・走る曲がる止まる・防水防音

  3. 安全を元に戻す:強度・エアバッグ系・ADAS(先進運転支援)・足回りジオメトリ

この3つを**“数値と証跡”**で示せるかが品質の境目です。


2|最終検査の全体フロー(標準ルート)

  1. 静的外観 → 2) 機能作動 → 3) 診断機スキャン → 4) 光軸/ADAS/アライメント → 5) 防水/防音 → 6) ロードテスト → 7) 書類・証跡の束ね → 8) お客様への説明・引渡し

以下、要点を順に深掘りします。


3|静的外観チェック:見た目は「数値化」できる

  • 面出し:映り込みで“波”や“ヒズミ”を斜め光で確認。ライトボードやルーラー目視の二段確認

  • チリ・段差:左右対称&メーカー基準値内。ガーニッシュ、モール端の段差・浮きを手触りで。

  • 塗装品質:肌(オレンジピール)、艶、色相/明度/彩度、メタリックのフレーク方向性。ダスト・ピンホール・垂れの有無。

  • 下回り処理:シーラーの連続性、スポット溶接痕の防錆、補修ワックスの塗布漏れなし。

ポイント:塗膜は膜厚計でスポット計測(複数点)。“見た目OK”を数値で裏付けます。


4|機能作動チェック:可動部と電装を一気に

  • 開閉:ドア/ボンネット/バックドアの一次/二次ロック、イージークローザー/パワーテールの速度・停止位置。

  • ガラス・ミラー:オートUP/DOWNの挟み込み保護、ミラー格納復帰。

  • 灯火類:全点灯とウィンカー点滅速度、フォグ/コーナリングランプ連動。

  • ワイパー/ウォッシャ:払拭位置・噴射角、撥水面でのビビり。

  • 室内:メーター警告灯、シートセンサー、シートベルトリトラクタ作動。

  • 足回り触診:ブーツ破れ、配線・ブレーキホース擦れ/干渉の有無、締結部のマーキング確認。


5|診断機スキャン:Before/Afterを残す

  • DTC全消去→再始動→再スキャン再発コードの有無を確認。

  • 初期化/学習:ステアリング角センサー(SAS)、ウィンドウ、スロットル、アイドリング学習などを車種別に

  • ソフト更新が必要なECUが出たら顧客合意→実施まで記録。

証跡:**スキャンレポート(入庫前/納車前)**をセットで保管・お渡し。


6|光学系とADAS:作業後は“校正までが修理”

  • ヘッドライト光軸:リフトアップ履歴やバンパー脱着後は必須。

  • カメラ/レーダー校正:フロントカメラ、ミリ波、サイド/リアレーダー、透明エンブレム交換後も含む。

  • パーキングセンサー/360°カメラ:映像の歪み・境目、距離警告の整合。

ポイント:水平床・規定距離・照度など環境条件を満たし、校正完了レポートを保存。


7|アライメント&足回り:真っ直ぐ走る=安全の土台

  • 4輪アライメント:トー/キャンバー/キャスター、スラスト角。調整後はハンドルセンターを実走で確認。

  • トルク管理:足回り、バンパービーム、補強類、バッテリーターミナル等を規定トルクで締結→トルクマーク

  • タイヤ:空気圧/TPMSリセット、偏摩耗・釘の刺さり。


8|防水・防音:雨と風の試験は“その日”に

  • シャワーテスト:ドア・ガラス・テール・アンテナ基部など継ぎ目集中で散水。トランク内やカーペット下の浸水確認。

  • ウインドノイズ:60〜80km/h帯で風切り音、ミラー/三角窓周りのひゅう音を点検。

  • きしみ/ビビり:低速段差・斜め越え・コインパーキングスロープで共振音を確認。


9|ロードテスト:短くても“目的を持つ”

  • 直進性、ブレーキの片効き、加減速時の異音・振動

  • ACC/LKAなどADASの基本作動。雨天時はオフ指示含め挙動説明を用意。

  • 温度が上がった状態で再点検(電動ファン作動音、樹脂の干渉など“熱後”の不具合を拾う)。


10|EV/HEV特有:高電圧の安全と熱管理

  • サービスプラグ復帰・絶縁抵抗、冷却ラインのエア抜き、高電圧配線の逃げ/固定

  • バッテリー温度と周辺の遮熱材復元、パッキン交換の有無。

  • HV作業記録は担当者・時間・チェック項目まで残す。


11|書類と証跡:品質は“言える化”で完成する

  • Before/After写真(外装/骨格/下回り)、塗膜膜厚記録、スキャン2枚、アライメント結果、光軸/ADAS校正レポート、トルク管理表。

  • 交換部品の返却/廃棄の同意、保証書、注意点のしおり

  • これらを1ファイルに束ねて、社内はデジタル保管+お客様へ抜粋をお渡し。


12|お客様へのご説明:体験が品質を“完成”させる

  • 作業内容の要約(写真で3枚以内)/交換と修理の判断理由。

  • 塗装ケア:数日〜数週間は高圧洗浄・撥水剤・固いワックスを控える案内。

  • 初期点検7日または100kmで“増し締め・異音・水漏れ”の無料点検

  • 何かあれば即連絡のホットラインを明示(不安の早期解消=満足度)。


付録|最終チェック“持ち歩き”リスト

外観:面/チリ/段差/塗膜(肌・艶・色)/モール・エンブレム
機能:開閉/灯火/ワイパー/窓・ミラー/室内スイッチ
足回り:トルク/タイヤ・空気圧/アライメント・ハンドルセンター
電装:診断機Before/After/初期化・学習/警告灯ゼロ
ADAS:光軸/カメラ・レーダー校正/Pセンサー・カメラ表示
防水・防音:散水/風切り音/きしみ・ビビり
ロードテスト:直進/制動/加減速/温間再点検
EV/HEV:サービスプラグ/絶縁/冷却・遮熱
書類:写真/膜厚/校正・整列レポ/トルク表/保証書


まとめ

整備後チェックは、「直した」を「安心に変える」プロセスです。
見た目・機能・安全を数値と証跡でそろえ、お客様の体験で仕上げる――この一連を“標準化”できた工場が、紹介とリピートを自然に生みます。
今日から、チェックを工程として再設計し、品質を“言える化”していきましょう。

 

 

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相互鈑金のよもやま話 ~変遷~

皆さんこんにちは!

相互鈑金、更新担当の中西です。

 

~変遷~

素材・電動化・保険・デジタルが交差する現代史

事故で歪んだパネルを叩いて延ばす――“板金”の原風景は、いまも職人仕事の象徴です。けれど現代の現場に立つと、かつての延長線では説明しきれない変化がいくつも重なっています。素材工学、電動化、先進運転支援(ADAS)、保険スキーム、そしてデジタル。自動車鈑金業は、分業の狭間にある「最後の総合職」へと進化しつつあります。本稿では、その変遷を現場視点で整理し、これからの店づくりの指針を提案します。


1|素材の進化が“叩いて直す”を変えた

かつて主役だった軟鋼パネルは姿を変え、高張力鋼・超高張力鋼(AHSS/UHSS)、アルミ、マグネシウム、CFRPなどのマルチマテリアルボディが標準化しました。これにより――

  • 加熱矯正の禁止領域が増えた(焼戻しで強度低下)

  • スポット溶接→リベットボンド/接着など、接合技術が多様化

  • パネル一枚の凹みでも、交換前提になるケースが増加

“勘と経験”に“手順遵守”が追加され、メーカーの修理マニュアル・工具・治具の指定に沿うことが品質と安全の前提になりました。


2|電動化が持ち込んだ「高電圧」と「熱リスク」

ハイブリッド/EVは、鈑金・塗装の作法そのものを変えました。

  • 高電圧遮断・絶縁・バッテリー温度管理が必須(入庫時点の安全化)

  • 事故や加修時のバッテリー熱暴走リスクを踏まえた保管・作業区画の見直し

  • バッテリーやセンサー群の価格が高く、全損判定が出やすい構造

結果として、鈑金工場は**“機械×電気×安全”の複合知識**を内製化する必要に迫られています。


3|ADASの時代:修理は「キャリブレーション」まで

バンパー、グリル、ウィンドウ、エンブレム――そこにミリ波レーダーやカメラが潜みます。外板作業後は、静的/動的キャリブレーションが不可欠。

  • 塗装の厚み、エンブレム交換、ガラス交換でも作動点がズレる

  • キャリブレーションにはターゲット、水平床、照度、アライメントなどの環境条件が必要

  • 誤った校正は安全機能の性能低下につながるため、設備投資と手順化が避けられない

鈑金は“元の形に戻す”だけでなく、**“元の機能に戻す”**産業へと定義が拡張されました。


4|「保険×鈑金」の力学が変わった

保険会社のDRP(指定修理ネットワーク)写真見積・テレマティクス事故受付代車・保証パッケージなどが進みました。一方で部品価格・人件費・エネルギーコストは上昇。現場が直面するのは――

  • 適正工賃の確保品質担保の両立

  • 「分解後見積(テアダウン)」や強制力のある工程写真で根拠を可視化

  • 再生部品・リビルト・リユースの活用と安全基準の線引き

安く速くから、正しく安全にへ。文書化・写真化を軸にした“交渉”が新しい技能になっています。


5|デジタル化:見積から生産管理へ

現場のデジタル化は、見積アプリを超え、工場全体の“流れ”の見える化にシフト。

  • 画像見積×AIで初期工数を短縮し、分解後に増額根拠を提示

  • DMS/ERP受注→部品手配→工程→検収を一気通貫

  • 3Dスキャニング・非破壊検査で骨格精度を数値化

  • 顧客には修理進捗の可視化(写真・チャット・引渡し予約)

「勘所の属人化」を解いて、再現可能な品質と収益に繋げる道筋が整ってきました。


6|人材の変遷:板金工から“総合エンジニア”へ

若手不足が叫ばれる一方、求められるスキルは増えています。

  • 素材工学・電装・計測まで広がった基礎力

  • 女性・異業種人材の活躍(検査・見積・品質保証・生産管理)

  • 安全衛生の高度化(溶接ヒューム、塗料のVOC管理、局所排気・保護具)

研修は「先輩の背中」だけでなく、メーカー講習・オンライン学習・動画SOPのハイブリッドへ。**“うまい職人”から“標準を守れるチーム”**が競争力になります。


7|環境とエネルギー:ブースと塗料の再設計

環境対応はコストではなく、品質と収益の両立策へ。

  • 水性塗料・低VOC硬化剤の採用

  • ブースの**断熱・気流・熱源(ヒートポンプ/ガス/電気)**の最適化

  • パネル単位の補修塗装乾燥工程の短縮でエネルギー原単位を改善

  • 廃溶剤・マスキング材の分別と再資源化

「速く安く厚く」ではなく、**“必要十分を、より少ない資源で”**が新基準です。


8|サプライチェーンの揺れ:部品リードタイムと情報戦

世界的な物流の乱れや部品価格の変動により、先行発注・代替品提案・入庫タイミングの設計が日常業務に。顧客に対しては――

  • 部品入荷予定の共有段取り替え(骨格先行・外装後追い)

  • 代車の予約管理引渡し目安の二段階提示

  • 交換部品と修理可否のリスク・コスト比較を可視化

“待たせない”ではなく、**“待ち時間の見える化”**が満足度を押し上げます。


9|顧客体験のアップデート:モビリティ・サービス化

「車を直す」から「移動を止めない」へ。引取・納車、モバイル決済、進捗写真、レビュー対応、保証の透明化。事故後の不安を減らすコミュニケーション設計が、紹介・口コミにつながります。


10|これからの10年:縮小か、価値の再定義か

テレマティクスとADASで事故は減る一方、1件あたりの単価は上昇。市場は量から質へと転じます。

  • メーカー認定工場保険ネットワークへの参加→標準化・監査対応

  • データと証跡で“言える修理”を積み上げる

  • **循環経済(再生部品・素材回収)**との接続で新しい収益源を確立

「叩いて直す」手仕事の魂を残しつつ、工程・安全・機能・環境を束ねる総合力の産業へ。鈑金は、交通の安全と資源の循環を裏方で支える“社会インフラ”として再定義されていくはずです。

 

 

 

 

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